能登里山の「構え」
低山や丘陵を縫うように平地が展開する能登の里山では杉や能登ヒバの複層林を有する山地や丘陵地を背景に、稜線に沿って民家群が横並びに配置され、その前面に比較的広く水田が開けている風景が至る所で見られる。民家は屋根の軒の出を深くし、その下に内と外をつなぐ縁側を設けることで、陰影のある開放的な空間が広がっている。そうした里山の風景に見られる「構え」に習い、敷地の北東側に広いグラウンド、その奥に校舎を配置する。杉林を背景に、県道側からはグラウンド越しに平入の校舎が見える里山らしいおおらかな風景は、地域住民や児童たちに親しまれ、いずれ里山を表象する小学校の原風景となる。また、手前に配置したグラウンドは校舎と町の中間領域であり、教師と地域住民双方の見守りにより児童の安全性を高めている。
里のスケール・海のスケール
計画敷地は里山と里海の中間に位置する。校舎を境に、南西側を遊びの原っぱ(小学校低学年用)、田畑やため池、雑木林といった異なるスケールが混在する広場「里の広場」とする。一方、北東側は様々なスポーツができるひとつの大きな運動広場「海の広場」とする。そして校舎は各々の広場のスケールに応じて、「里の広場」に面してはヴォリュームを分節し(里のスケール)、「海の広場」に面しては、海に面する漁場の番屋や魚市場のように、シンプルな平入のワンヴォリューム(海のスケール)としている。さらに、建物の諸室の広さ、機能性は2つの異なるスケールを緩やかに結ぶように配置される。1階では通り土間のほかに、視覚的にオープンなランチルームとメディアセンターが「里の広場」と「海の広場」を繋ぎ合わせている。同時に行事や災害時など、地域住民の利用形態のスケール感に合わせて場所を選択することで利用促進の助けとなる。
鉄骨+木材フレーム
構造要素:・X型鉄柱とH鋼梁による鉄骨ラーメンフレーム
・木柱と梁による木フレーム
・厚さ120のCLTパネル
鉄骨フレーム(5.4m×5.4mと3.6m×3.6m)とCLTを組み合わせた「CLTによるそで壁と境界梁による耐震架構コアユニット」を木造平面の中にバランスよく分散配置し、建物全体の水平力の過半を負担させることにより、木フレームの内部耐力壁面をなくし、自由度の高い木造空間をつくる。2つのグリッド(1.8mグリッドと2.7mグリッド)により、異なる使い方に沿った、多様な空間の広さを組み立てる。建具や可動パネルを組み替えることで、柔軟に学習環境を確保する。地産の小径木による木造建築は小学生の生活に馴染むスケールとなり、また地元大工による維持管理が容易である。災害時においても要望に促した可変性の高い避難所をつくることができる。
架構がもたらす空間システムの提案
『能登里山の「構え」』『里のスケール・ 海のスケール』『鉄骨+木材フレーム』の考えを起点に、地方の小規模小学校に適した架構がもたらす空間システムの提案である。これまでの、要求された諸室の面積を割り当て、それに合わせた構造体を当てはめていくという慣例化した空間システムを問い直し、柔軟な構造体の中で「思考」を止めることなく、地域の児童、保護者、教職員そして学校を見守る地域住民が求める小学校を共に提示したいと考えている。それは災害時、児童の減少による他の施設との並存・合併、文部科学省の「学び」の変革においても有効に働くシステムの提案になると考える。