ケニアの伝統的住居形態について

私の研究は、以前にケニア共和国で実施したフィールド調査に基づいて、いくつかの部族の伝統的住居形態に関する考察を行うことです。ケニアは独立後、近代化・工業化を進めていて、社会制度や生活様式の変化に伴い、建築の材料・工法・形態も変化し、今日では「伝統的」と呼べる建物は大変少なくなってしまいました。現地調査では現存する住居の実測と共に、長老へのヒアリングにより、伝統的住居についての多くの事柄を採取しました。現在この資料を空間把握の視点から住居を記述するために分類・分析しています。ケニアの伝統的住居と聞くと、木、草、泥で造られた小さな建物を想像されるでしょう。このような建物を研究してどうなるのかという疑問に少し触れて起きます。

私達が日常生活を不安なく過ごせるのは、自分が何処にいて、または何処に向かおうとしているのかを了解しているからです。また、人に会えば互いの関わりによって言葉や態度を変えています。それらは意識しなくても、ある空間的な意味や秩序によって、人々が環境の内に結びつけられているからです。これを「定位」と呼びます。定位は人間と環境との間の相互作用を通してバランスの取れた状態をつくろうとします。道上生活は異なる場面の連続ですが、常に構造化された場所体系の中で営まれています。現代はこのバランスが曖昧になりつつあります。機能の複合化、環境の強いコントロール、経済的基準への偏り、時代的なノマド感覚などの理由により、定位の様相が変形され見え難くなっているからです。古くから人は地上に立って「住む」ことを続けてきました。それは一定の普遍性を持つ要素からなる定位の様態によるものと考えられます。現代の環境や住まいがバランスを失わないためには、具体的な場所に即した、安定した定位の様態を中心に備えなくてはなりません。高度に情報化された社会においても、その意義は失われることはないでしょう。

ケニアの伝統的住居は原初的で長く伝承されたもので、安定した定位の様態を建築的に表現していると考えられます。そこに、ある種の「住まいの祖型」を見つけようとするのが私の研究の目的です。